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横浜地方裁判所 昭和51年(行ウ)24号 判決

神奈川県模原市上鶴間四丁目二二番二二号

原告

江藤春雄

右訴訟代理人弁護士

遠藤雄司

同県同市富士見六丁目四番一四号

被告

相模原税務署長

斎田清治

右指定代理人

一宮和夫

中村正俊

水庫信雄

池田春幸

鴨下英主

渡部康

吉岡光憲

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対して昭和五〇年三月一三日付でなした昭和四四年分所得税の納付すべき税額を八四五万一〇〇〇円とする決定処分及び重加算税二九五万七八〇〇円の賦課決定処分、並びに昭和四五年分所得税の納付すべき税額を三三万九〇〇〇円とする決定処分及び重加算税一一万八六〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和四四年、昭和四五年中は三協物産株式会社(以下「三協物産」という。)に勤務する給与生活者であり、昭和四四年分所得税について、別表一(一)の年末調整額欄記載のとおり源泉徴収を受け、昭和四五年分の所得税について、別表一(二)の年末調整額欄記載のとおり源泉徴収を受けていた。

2  被告は、昭和五〇年三月一三日、原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の各所得税について、右各年分の所得のほかに、昭和四四年分は一七八一万五〇〇〇円、昭和四五年分は二〇三万円の雑所得があるとして、昭和四四年分の所得税については、別表一(一)の決定額欄記載のとおり、納付すべき税額を八四五万一〇〇〇円とする決定処分及び重加算税額を二九五万七八〇〇円とする賦課決定処分をなし、また昭和四五年分の所得税については、別表一(二)の決定額欄記載のとおり、納付すべき税額を三三万九〇〇〇円とする決定処分及び重加算税額を一一万八六〇〇円とする賦課決定処分をした。

3  そこで、原告は、右各処分(以下「本件処分」という。)を不服として昭和五〇年四月二日被告に異議申立をしたところ、被告は、同年七月二日右申立を棄却する旨の決定をした。さらに、原告は、同年七月二八日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五一年七月六日審査請求を棄却する旨の裁決をした。

4  しかしながら、原告は、昭和四四年、昭和四五年ともに給与所得以外の所得はない。

従って、被告のなした本件各処分は違法である。

よって、請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項ないし第3項の事実は認める。

2  同第4項の事実及び主張は争う。

三  被告の主張

本件処分は、次のとおり正当になされたもので何ら違法の点はない。

1  (昭和四四年分、昭和四五年分の雑所得について)

(一) 原告は、三協物産に不動産部計画調査部長として勤務していた者である。三協物産は、東京都西多摩郡瑞穂町地区で住宅地を造成するため、昭和四三年一二月二〇日、久米川土地建物株式会社(以下「久米川土地」という。)を売主として、あらかじめ右造成の対象となる三四万二六五七・八四平方メートルの土地を坪あたり九五〇〇円で買受ける旨の契約(以下「本件土地売買契約」という。)を締結し、久米川土地は右対象土地を地主から買取り、所有権を三協物産に移転することとした。これにともない三協物産は、同社の専務取締役武藤貞一(以下「武藤」という。)、原告及びその他三名の社員を久米川土地の現場事務所に派遣し、久米川土地の買収業務の応援、指導、監督にあたらせていた。

特に原告は、三協物産の計画調査部長であったことから、瑞穂地区における土地買収業務の責任者として買収計画の立案を行い、「三協物産株式会社計画調査部長江藤康行」と称して地主代表者、町議会及び町当局と折衝を行う等久米川土地の買収業務を指揮していた。

そして、三協物産は、買収資金を瑞穂農業協同組合(以下「瑞穂農協」という。)の久米川土地名義の普通貯金口座に振込み送金し、久米川土地は、武藤及び原告の指示を受け、両名のどちらかが瑞穂農協に同行して、右貯金口座より土地代金を引き出すか、又は両名のうちどちらかに瑞穂農協へ事前に電話で指示して貰って、右貯金口座より土地代金を引き出し、これを地主らに支払っていた。

(二) ところが、三協物産から瑞穂地区の買収業務の責任者として久米川土地に派遣された武藤及び原告は、右土地代金の支払について、土地代金名目の外に調整金などの名目で土地代金の一部が支払われるという慣行があることを奇貨とし、前記のように、三協物産が瑞穂農協に買収資金として振込んだ貯金を管理する立場にあることなどを利用して、右買収資金の一部を私することを共謀し、久米川土地の代表取締役鈴木良一(以下「鈴木良一」という。)に対し、真実の土地代金のほかに特別調整金等の名目で、土地代金を支払った如き形式をとり、偽りの領収証を作成し、土地代金を水増しして三協物産から土地代金を支出させ、その水増し分を武藤、原告及び鈴木良一の三人で分配し、また、右鈴木良一をして久米川土地において右偽りの領収証を使用して会計処理等をするように強要した。

(三) 久米川土地においては、本件土地売買契約で約一億五〇〇〇万円程度の利益が見込まれていたため、殊更土地代金を水増しして買収資金の一部を取得する必要がなかったこと、右買収資金は本件買収が完了するまでは久米川土地の三協物産に対する売上代金の前渡金的性格のものであり、しかも未清算の段階では久米川土地の損益が判明しないこと、更に久米川土地としては、本件買収をするにあたって三協物産の鈴木重成社長を説得するなどして世話になった武藤及び原告に、本件買収の終了時点で右取引の見込利益の中から四〇〇〇万円ないし五〇〇〇万円位の謝礼をするつもりでいたこと等から、右鈴木良一は偽りの領収証を作成して土地代金を水増しすることを拒否した。

(四) しかるに、武藤及び原告は、「今が金をつかむチャンスだ。」と言って聞き入れず、買収資金を管理する立場を利用して右鈴木良一に右行為を強要し、久米川土地の現地事務所である瑞穂町の立堀英雄方の庭先にあるプレハブの奥の和室で、武藤及び原告の両名、又はそのどちらか一人が立会のもとで、久米川土地に偽りの領収証を作成させる等して土地代金を水増しし、右水増し金員を現金で取得したのである。

右のようにして、原告が昭和四四年中及び昭和四五年中に水増し金員を取得した年月日及び金額の明細は、別表二記載のとおりである。

なお、原告が昭和四四年六月一〇日に取得した一九〇万円は、原向が前同様の方法で、土地代金を水増して久米川土地に偽りの領収証を作成させ、三協物産から土地代金を支出させたが、武藤及び久米川土地に分配することなく、原告が全額取得したものである。

(五)(1) また、原告は、右のほかにも、昭和四四年一二月二五日、三〇〇万円を買収資金を管理する自己の立場を利用して、右水増し金員と同様に久米川土地に要求して、本件土地購入資金の中から武藤及び久米川土地に分配することなく全額取得した。

(2) さらに、原告は、昭和四四年三月八日、同年六月一〇日及び昭和四五年四月一〇日に各一〇万円、並びに昭和四四年四月一六日及び同年六月二日に各五万円の合計四〇万円を、買収資金を管理する自己の立場を利用して、その使用目的を明らかにすることなく、久米川土地に交付を要求し、これを取得している。

そして、これらの金員については、その後においても、原告は久米川土地に全く返済しておらず、また、久米川土地も原告に返還を要求していないのであるから、原告の右金員の取得は、これを雑所得とみるべきものである。

(六) また、雑所得の計算の基礎となるべき事実につき、次のとおり原告は久米川土地を利用して、仮装穏ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づき法定期限までに納税申告書を提出しなかったので、国税通則法第六八条第二項に該当する。すなわち、

(1) 原告は、右水増し金員を取得するに際しては、鈴木良一に対し、原告らが右金員を取得した証拠書類を絶対に残さないよう厳重に言い聞かせるとともに、偽りの領収証を作成させ、さらに、自己の取得した金員については被告税務暑長の質問に対し、右取得事実を否認するなど仮装隠ぺいの行為をしたものである。

(2) また、原告が昭和四四年一二月二五日に受取った三〇〇万円についても、前記の如き事実関係の下で、原告は久米川土地に対し当然のように交付を要求してこれを取得し、久米川土地も止むなくこれに応じたものであって、その授受については、前記水増し金員と同様に偽りの領収証を作成させる等して仮装隠ぺいすることが黙示的に双方了解の上でなされたものである。

(3) さらに、前記(五)(2)記載の四〇万円についても、前記の如き事実関係の下で、原告は久米川土地に対し、右の如き少額な金員については鈴木良一の取得分から当然に取得して差し支えないような態度で特に理由を明示することなく要求して久米川土地も半強制的に支出することを余儀なくされたもので、その授受について、原告は鈴木良一に対し前記水増し金員についての仮装隠ぺいと同様のことをしなければならないことを黙示的に要求し、また、双方これを了解していたものである。

2  (決定処分)

そこで、被告は、原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の所得税について、それぞれ別表一(一)(二)の決定額欄記載のとおり、原告の年末調整により、被告においてもこれを正当と認めた給与所得に、前記のように原告が不法に領得した金員を雑所得と認め、これを加えて昭和四四年分及び昭和四五年分の総所得金額をそれぞれ一八七四万三〇六四円、三一〇万七五七六円と認定し、それぞれ年末調整による所得控除(なお、昭和四五年分は被告が追加して認定した医療費控除を含む。)をなし、税額を算出し、源泉徴収額を差引いて昭和四四年及び昭和四五年分の所得税について納付すべき税額をそれぞれ八四五万一〇〇〇円、三三万九〇〇〇円と算出して国税通則法第二五条の規定を適用して、本件決定処分を行なった。

3  (重加算税の賦課決定処分)

また、前記1のとおり、原告は昭和四四年に一七八一万五〇〇〇円、昭和四五年に二〇三万の雑所得を得たにもかかわらず、右所得を仮装隠ぺいして納税申告書を提出しなかったのであるから、被告は国税通則法第六八条第二項に基づき、各決定処分により納付すべき昭和四四年分所得税額八四五万一〇〇〇円、昭和四五年分所得税額三三万九〇〇〇円に一〇〇分の三五の割合を乗じて得た金額(ただし、国税通則法第一一九条第四項により一〇〇円未満の端数切捨て。)に相当する重加算税昭和四四年分二九五万七八〇〇円、昭和四五年分一一万八六〇〇円を賦課決定した。

四  被告の主張に対する原告の認否

1(一)  被告の主張1(一)の事実中、原告が三協物産の不動産部計画調査部長をしていたこと、三協物産が同社の専務取締役武藤を久米川土地の現場事務所に派遣していたこと、三協物産が買収資金を瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振込み、久米川土地は武藤の指示を受け、同貯金口座より土地代金を引き出し、これを地主らに支払っていたことは認めるが、原告の指示で同貯金口座より土地代金を引き出していたとの事実は否認する。その余の事実は争う。

(二)  同(二)ないし(五)の事実は否認する。

(三)(1)  同(六)冒頭の主張は争う。

(2) 同(六)ないし(3)の事実は否認する。

2  同2の事実中、被告主張の如き雑所得の存在を否認し、その余の事実は認める。

3  同3の事実中、原告が被告主張の如き雑所得があったにもかかわらず、これを仮装隠ぺいし納税申告書を提出しなかったことは否認する。その余の事実は認める。

五  原告の反論

1  原告は、昭和四四年一〇月一日に勤務場所が八王子に変り瑞穂地区の久米川土地現場事務所には行っていないので、久米川土地から金員を受領することはできない。

2  さらに、原告は、昭和四五年一月一〇日旅先で三協物産の社員の畠中に殴打されて負傷し、町田病院に入院し、同年二月二五日には日本医科大学附属病院に転院し、同年三月一六日に退院したのであるから、その間久米川土地に行くことは不可能であり、従って、久米川土地から金員を受領した事実はない。

六  原告の反論に対する被告の認否

1  原告の反論1の事実を否認する。

2  同2の事実中、町田病院及び日本医科大学附属病院に入院したことは認めるが、その余の事実は争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証、第二号証の一ないし三。

2  証人佐藤敏彦、原告本人(一、二回)。

3(一)  乙第一号証は原本の存在及び成立は不知。

(二)  乙第二号証、第三号証、第五号証、第六号証の一、二、第一六及び第一七号証の各成立は不知。

(三)  乙第四号証、第八号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一五号証の各成立を認める。

(四)  乙第七号証は原告作成部分の成立を否認し、その余の成立は不知。

(五)  乙第九号証は原本の存在及び成立を認める。

二  被告

1  乙第一ないし第五号証、第六号証の一、二、第七ないし第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一七号証。

2  証人鈴木良一(一、二回)。

3  甲号各証の成立は不知。

理由

一  請求原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、被告主張の雑所得について検討する。

成立に争いのない乙第四号証、第八号証、第一〇号証、第一一号証の一ないし四、第一二ないし第一五号証、証人鈴木良一の証言(一回)により真正に成立したと認められる乙第二号証、第三号証、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第一七号証、同証言により原本の存在及び成立の認められる乙第一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第一六号証、並びに証人鈴木良一の証言(一、二回)、弁論の全趣旨を総合すれば次の事実が認められる。

1  久米川土地は、もともと不動産の仲介を業とする会社であって、当初仲介手数料を得る目的で昭和四三年六、七月ころ三協物産に西多摩郡瑞穂町地区の土地を買収し、住宅開発をしないかという話を持ちこみ、仲介の話しを進めていたところ、同年秋ころに至り、同社の専務取締役をしていた武藤及び同社の計画調査部長をしていた原告から、三協物産の鈴木成社長を説得し、買収資金の面倒をみるから、右地域の買収した土地をいったん久米川土地の所有名義にしたうえで三協物産に転売してはどうか、その方が利益が多いではないかと再三勧められ、同年一二月初ころには、買収対象土地の地主らに対する根回しもほぼ終わり、三協物産から久米川土地に対し買収資金が出資されることが確実になるに及んで、そのころ久米川土地は右勧めに従うこととし、同年一二月二〇日三協物産との間に、いったん久米川土地が地主から土地を買受け、これを三協物産に転売することを内容とする本件土地売買契約を結ぶに至った。

2  これにともない、三協物産は、武藤及び原告その他三名の社員を久米川土地の現場事務所に派遣し、久米川土地の買収業務の応援、指揮監督にあたらせた。特に原告は、三協物産の計画調査部長であったことから、瑞穂地区における土地買収業者の責任者として買収計画の立案を行い、「三協物産株式会社計画調査部長江藤康行」と称し、久米川土地とともに地主代表者、町議会及び町当局と折衝を行う等、久米川土地の買収業務を指揮していた。三協物産は、買収資金を瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振込み送金し、久米川土地は、武藤及び原告の指示を受け、両名のどちらかが瑞穂農協に同行して右貯金口座から土地代金を引き出すか、両名のうちどちらかに瑞穂農協に事前に電話で指示して貰って、右貯金口座より土地代金を引き出し、これを地主らに支払っていた。

(原告が三協物産の不動産計画調査部長をしていたこと、三協物産が同社の専務取締役武藤を久米川土地の現場事務所に派遣していたこと、三協物産が買収資金を瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振込み、久米川土地が武藤の指示を受け同貯金口座より土地代金を引き出し、これを地主らに支払っていたことは当事者間に争いがない。)

3  ところで、武藤及び原告は、右のとおり瑞穂地区の買収業務の責任者として三協物産から久米川土地に派遣され、久米川土地が行なう同地区の土地買収業務を応援するとともに、買収の指揮、監督をなし、また、三協物産から右土地買収資金として瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振り込まれた金員を管理する立場にあったものであるが、本件土地売買契約の締結及び瑞穂農協への普通貯金口座の開設がなされる前の同年一二月初めころ、不動産業者が地主らから土地買収をするにあたり、その代金の支払方法として、土地代金名目のほかに調整金などの名目で代金の支払がなされるという取扱があることに目をつけ、かつ指導監督者として久米川土地に対し優越的な立場にあることを利用して、三協物産から土地買収資金として支払われる金員の一部を私しょうと共謀し、鈴木良一に対し、真実の土地代金のほかにこれを買収するために要した費用の名目で架空の特別調整金などを計上し、土地代金を水増ししてこれを三協物産に請求し、三協物産から支払を受けた金員のうちの水増し分を久米川土地、武藤及び原告の三人で分配して取得すること、また、そのための方法としては、真実の土地代金の領収証のほかに、偽りの領収証を作成し、これを三協物産に提出して代金を請求し、さらに、久米川土地の帳簿上も右架空の特別調整金等を土地の取得費として計上して会計処理をすること等を強く要求した。

4  久米川土地としては、本件土地売買契約による土地の買収は、規模も大きく金額も多額であるので、税務調査等により不正分配に係る架空の原価部分を否認され、久米川土地の所得として久米川土地のみが税負担をするようになると大変であるし、また、三協物産から久米川土地に支払われる金員は、本件土地売買契約により久米川土地が受領する売買代金のいわば前渡金的性格をもつものであり、後日問題が起こると困るなどの理由から、最初はこれに反対していたが、監督的な立場にある武藤及び原告が要求していることでもあり(特に原告は、「今が金をつかむチャンスだ。」等と言って強くこれを要求した。)、止むなくこれに従うようになった。

5  そして、久米川土地は、昭和四三年一二月末ころから昭和四五年六月ころまでの間、三協物産に対し地主らから受取った真実の土地代金の領収証に加えて、偽りの領収証をつけてその合計額を地主らに支払ったように報告し、三協物産から右土地代金の支払を受け、その都度その水増し分を久米川土地、武藤及び原告の三人で分配し、また、昭和四四年六月一〇日には原告が単独で水増し分を取得した。

右のようにして、原告が久米川土地から受領し取得した金員は、昭和四三年中に受領した分を除き別表二記載のとおり、昭和四四年中は三月一四日ころから一二月二〇日ころまでの間に前後二二回にわたり合計一四五一万五〇〇〇円、昭和四五年中には二月三日ころから六月二五日ころまでの間に前後六回にわたり合計一九三万円となる。

なお、その間にあって、原告は、久米川土地に対し、右水増しによる分配金のほかに、自己の優越的立場にあることを利用し、その処理の方法を直接には示すこともなく、また、返済する意思もなく、もっぱら自己の用に供するための金員であることを暗黙に示して昭和四四年三月八日一〇万円、同年四月一六日及び同年六月二日に各五万円、同年六月二一日一〇万円、同年一二月二五日三〇〇万円、昭和四五年四月三日一〇万円を各要求し、原告の意思を了解した久米川土地をして、昭和四四年一二月二五日の三〇〇万円は三協物産から土地購入資金として振り込まれた久米川土地の貯金を下ろして交付せしめ、また、その他の金員は三協物産から買収事務経費として久米川土地に支出されていた金員から交付を受け取得した。

6  ところで、右水増し分の分配にあたり武藤及び原告は、鈴木良一に対し、右金員は多額であるから原告らにおいてこれを取得したとする証拠書類を絶対に残さないようにと厳重に申し渡すとともに、領収証を偽造したり、水増し分を分配したりする時は、必ず武藤及び原告又はそのうちの一人が立会い、また、偽りの領収証による会計処理を指導し、あわせて税額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいした。さらに、その余の金員の受領についても、原告は、これを取得する正当な理由がないことから、前記水増しによる分配金と同時に、原告が右金員を受領した事実を証する証拠書類を残さないことを当然の前提としてこれを要求し、また、久米川土地も原告の意向を受けて正規の記帳をしなかった。もとより、原告は、右分配金等の受領した金員については納税申告書を提出していない。

7  また、原告は、昭和四五年六月ころ三協物産をやめ、武藤も昭和四六、七年ころ瑞穂町地区の現場から他に移ったが、三人で分配した金員及び原告が交付を受けた前記金員は右原告の退社ないし武藤の配置転換に際し何ら問題とされず、決済されることなくそのままにされていた。

以上の事実が認められる。

原告は、昭和四四年一〇月一日から勤務場所が瑞穂地区から八王子地区に変ったし、さらには昭和四五年一月一〇日には三協物産の社員であった畠中に殴打されて負傷し、以来同年三月一六日まで町田病院や日本医科大学附属病院に入院し、久米川土地には行っておらず、従ってその間は被告主張の如き金員を受領することは不可能である旨主張し、原告本人はこれにそう供述をし、さらに瑞穂地区に派遣されていたとき、原告において久米川土地から金員の交付を受けたことはあるが、それは当時資金繰りの必要上三協物産の下田部長に頼まれて、同会社が一旦瑞穂農協の久米川土地名義の普通貯金口座に振り込んだ金を、久米川土地名義で引き出し、これを三協物産に持ってかえるため預ったものであるとか、又は、久米川土地が地主らとの買収折衝をするについて、その交通費、接待費等を預ったものに過ぎない旨供述し、証人佐藤敏彦もこれらを裏付けるかのような供述をする。

しかしながら、前示乙第一三ないし第一六号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証及び証人鈴木良一の証言(一、二回)によると、原告が町田病院に入院していたのは昭和四五年二月二〇日から同月二五日まで、日本医科大学附属病院に入院していたのは同日から同年三月一六日(いずれも別表二の昭和四五年分及び昭和四五年四月三日の金員受領の日は含まない。)であること、原告が三協物産を辞めたのは昭和四六年六月ころで、原告は辞めるまで瑞穂地区の買収のため久米川土地現場事務所に行っていたことが認められる。

また、原告が三協物産の本社に持参するためないしは買収の折衝の費用として久米川土地から金員を預った旨の供述も、前示乙第一〇号証、証人鈴木良一の証言(一、二回)に照して到底採用できない。

そうすると右原告本人及び証人佐藤敏彦の各供述は容易に信用できない。

その他右認定に反する証拠はない。

以上の事実によると、原告が取得した右金員は原告において不法に領得したもので雑所得にあたると認めるのが相当であり、また、原告は右所得を仮装隠ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出せず、右雑所得につきその税額を免れたものであると認めることができる。

三  決定処分の適法性

以上一、二の事実によると、原告の昭和四四年分の総所得金額は給与所得金額九二万八〇六四円に右雑所得の金額一七八一万五〇〇〇円を加えた合計一八七四万三〇六四円となり、昭和四五年分の総所得金額は給与所得一〇七万七五七六円に右雑所得の金額二〇三万円を加えた三一〇万七五七六円となるところ、争いのない所得控除をして算出所得税額を計算し、これから源泉徴収額を差引き原告の納付すべき昭和四四年分及び昭和四五年分所得税額を計算すると、それぞれ八四五万一〇〇〇円、三三万九〇〇〇円となる。

(なお、原告には各係争年において、右の雑所得があり、右二認定の事実によれば右所得に係る納税に関して国税通則法第七〇条第二項第四号に規定する「偽りその他不正の行為により税額を免れた」ものと認めることができるので、被告が法定申告期限から五年以内になした本件各決定処分は適法である。)

従って、被告が原告の昭和四四年分及び昭和四五年分の所得税について納付すべき税額を右のとおり認定してなした本件各決定処分は正当である。

四  賦課決定処分の適法性

また、前記二認定のとおり、原告は昭和四四年に一七八一万五〇〇〇円、昭和四五年に二〇三万円の雑所得を得たにもかかわらず、右雑所得についてこれを仮装隠ぺいし、その仮装隠ぺいしたところに基づいて納税申告書を提出しなかったのであるから、国税通則法第六八条第二項に基づき、各決定処分により納付すべき所得税額に一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税が課せられることになる。そして、本件決定処分により納付すべき税額は、前記認定のとおり、昭和四四年分八四五万一〇〇〇円、昭和四五年分二三万九〇〇〇円であるからこれを基礎にして計算すると重加算税の額は昭和四四年分二九五万七八〇〇円、昭和四五年分一一万八六〇〇円となる。

従って、右と同旨にでた本件重加算税賦課決定処分は正当である。

五  よって、原告の本訴請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴詮法第七条、民事訴訟法第八九条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川正澄 裁判官 三宅純一 裁判官 清水節)

表一

〈省略〉

(なお、昭和四五年分決定額について所得控除が二三九、五九〇円増加したのは、決定において医療費控除を認めたことによる。)

表二

昭和44年分

〈省略〉

昭和45年分

〈省略〉

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